運送業界を支えるサービスを提供する MeeTruck 株式会社は、業務の特性上、 安定的なシステム運用が欠かせません。サービス基盤である CQRS アーキテク チャの検索用 DB に Elasticsearch を採用し、ユーザー数やデータが増えても 性能劣化がない環境をローコストで実現しています。今後はさらなるユーザーの利便性向上を目指し、サービスの高速化を目指しています。
MeeTruck 株式会社
2020 年に設立され、運送会社向け業務支援サービス「MeeTruck(ミートラック)」を提 供するアプリケーションサービス事業者。2022 年にはユーザーの声に応え、空車と貨 物とのマッチングを行う「MeeTruck マッチングサービス」の提供を開始した。 https://www.meetruck.co.jp/
物流会社をデジタル技術で支援し、 業界全体を下支えするサービスを提供
社会のデジタル化が進んでも、人々の身の回りのさまざまな品物は誰かが目的地まで運ば なければならない。人々の生活や企業活動を支える物流業界の重要性は、DX(デジタル トランスフォーメーション)の時代にあってむしろ高まっているとさえ言えるだろう。そうした 宅配便に代表される日本の物流網は世界的にみても高品質とされている。しかし、その物 流業界を支える企業には多くの負担がのしかかっているのも事実だ。とりわけ、全国約 6 万社にものぼる中小規模の企業では、業務のシステム化、効率化がなかなか進んでいな いのが実態で、トラック運行にまつわる近年の規制強化などもあって管理負担がかつてないほど大きくなっている。
そんな運送会社の課題解決に向けて業務支援サービスを提供しているのが、MeeTruck 株 式会社だ。NIPPON EXPRESS ホールディングス株式会社とソフトバンク株式会社の共同出 資で設立され、物流業界の知見とデジタル技術の知見を組み合わせることで業界全体を下 支えしようとしている。
現在の主力サービスは、TMS(Transportation Management System、運送会社向け業務 支援サービス)の「MeeTruck(ミートラック)」だ。PC の Web ブラウザおよびスマートフォン 向けアプリを通じて、案件登録や配車表、ドライバーたちの勤務計画や拘束時間、作業指 示やメッセージ配信などの管理機能を提供し、配車担当者の業務効率化や事務負担軽減に 取り組んでいる。それと同時に、未配車の案件や空き車両などの最新状況を可視化し、配車ミスの抑制にもつなげている。また、経営者向けの実績照会、事務担当者向けの請求管 理などの機能も持つ。さらに 2022 年には、本サービスのユーザーの声に応える形で、空車 と貨物とのマッチングを行うサービス「MeeTruck マッチングサービス」の提供を開始した。
これらのサービスは、いずれも手軽に登録でき、料金(月額費用、マッチング成約料金等) も安価な設定としているだけでなく、UI/UX も含め中小運送事業者にとって使いやすいサー ビスを心掛けているという。同社デジタルトランスフォーメーション本部 第三ビジネスエンジ ニアリング統括部 D プロジェクト準備室 システム開発課 担当課長の原俊太郎氏は、以下の ように説明する。
「競合となるサービスは他にもありますが、我々はユーザーに親しみやすいよう、特に UI/UX を洗練させることにこだわっています。物流業界は今もアナログな仕事をしている会社が多 い業界ですが、その中で働いている人たちはプライベートでも今どきの UI/UX に親しんでい るはずですから、業務支援サービスも同様に洗練されていることが望ましいという考えを持っ ています。システム構築当初は外部に委託していた部分も多かったのですが、その後は我々 自社エンジニアが中心となって開発運用を行う体制へと移行してきており、UI/UX を洗練さ せたり、レスポンスを改善させたりなど、日々ユーザーのための改良を進めています」
クラウドインフラ上にサービスを構築し、 検索用 DB に当初から Elasticsearch を活用
MeeTruck のサービス基盤は、複数の大手クラウドインフラを活用し、kubernetes 環境 を中心に SaaS/PaaS などを用いた構成だ。原氏をはじめとする同社エンジニア陣は、 DevSecOps に基づく開発・運用を通じて、システムの安定運用と改良を進めている。
そのアーキテクチャとしては、CQRS(Command and Query Responsibility Segregation、 コマンド・クエリ責務分離)を取り入れ、書込用 DB と検索用 DB を使い分けている点が特 徴の一つだ。分離することにより書込用と検索用とそれぞれの要件に特化している DB を使 えるといったメリットがある。MeeTruck では TMS もマッチングサービスも、書込用途に強 い RDBMS と組み合わせる形で、当初から検索用 DB 側に Elasticsearch を用いている。
「Elasticsearch といえば、日本国内ではログ検索用 DB として採用するユーザーが多いか と思います。私も以前、SIer で働いていた頃にログ検索用 DB として利用したことがありました。Elastic 社は当時から、カンファレンスや勉強会などを開催しており、日本市場にもコ ミットしてくれる会社という印象があったので、機会があれば Web アプリケーションの検索 用 DB としていつか採用したいと考えていました」と、原氏は Elasticsearch に対する評価を 語る。MeeTruck の環境に触れて、CQRS における Elasticsearch の強みを実感したという。
Elasticsearchはログ可視化ツールとして優れた製品で あ る こ と は 言 う ま で も あ り ま せ ん が 、C Q R S ア ー キ テ ク チャの検索用DBとしても良い製品です。Elastic Cloud へ移行してからは既存クラウドのマネージドサービスよ り コ ス ト 削 減 が で き 、セ ッ ト ア ッ プ や バ ー ジ ョ ン ア ッ プ も 迅速でエンジニアたちの待ち時間も減らせています。また、Elasticによるサポートの品質もトップクラスです

後者に Elasticsearch を採用して高速な Web サービスを実現している
「そのメリットとして驚いたのは、ユーザーやデータが増えても性能劣化がほとんどないこと です。Web アプリケーションでは DB 系がボトルネックになりがちですが、その問題がほぼ ないのです。DB を分けるアーキテクチャは管理が面倒になるものの、この組み合わせなら そのデメリットを上回る効果があると感じました。Elasticsearch は、ログ可視化として優れ た製品であることは言うまでもありませんが、このような検索用 DB としても優れた製品です」(原氏)
クラウド事業者のマネージドサービスから Elastic Cloud へ移行し、 さらなる効果も
この Elasticsearch の環境には、原氏が担当して以来、変化があった。当初は、クラウド事業者がマネージドサービスとして提供している Elasticsearch を用いていたが、クラウド事業者が提供するサービス自体に課題があったのだ。
「以前使っていたサービスはコストが高かったり、アップグレードに時間がかかったりするな ど、さまざまな課題がありました。パッチ適用などのメンテナンスが勝手に実行されること も大きな業務負担になっていました。そうした中で Elastic が提供するサービスはコストが安く、運用面でも使いやすいので移行を決めました」(原氏)
移行先となったのが、Elastic の公式マネージドサービス、Elastic Cloud だ。費用削減になることはもちろん、会社としての姿勢や、クラウド事業者のマネージドサービスから移行した実例が複数あったことなどを評価して最終的に決めたという。インタビュー時点では、残 る 1 つの DB を除いて移行を完了しているとのことだ。
「Elastic Cloud に移行してからは、サクサク動くようになったと感じています。おかげでインスタンスのサイズを抑えることができ、サーバについては以前の 3 ~ 4 割くらいコストを削 減できました。バージョンアップもスムーズで、早いものでは数分で終わるため、エンジニアたちの待機時間も減らせています。新規にセットアップする際も、同じく早いですね。また、Terraform で設定できる内容も移行前に比べて拡大しています」と、原氏は Elastic Cloud を評価する。
「SaaS や PaaS の中には、『製品は良いけどサポートが今一つ』というものもある中で、 Elastic によるサポートは質が良く、想定していなかった移行メリットとなりました。レスポンスが早く、対応状況も分かりやすく伝えてくれて、トラブルシュートだけでなく知識不足を補うための質問にも丁寧に返事をしてくれるなど、助かっています。自分たちが使っている数多くの SaaS や PaaS の中でも一、二を争う高いサポート品質です。また、サポート窓口は日本語にも対応しているので、英語を使えないエンジニアでも安心してサポートを利用できます」(原氏)
より使いこなして、 さらなる高速化を目指していく
ちなみに、Elastic Cloud への移行の際には、クラウドのストレージサービスを経由してデー タを移すのが標準的な手順だが、原氏らは MeeTruck そのものの内部機能を使って移行さ せた。
「具体的には、DB 間のデータを同期するジョブがあるので、それを使って Elastic Cloud 環 境にデータをコピーした後に、アプリの接続先を Elastic Cloud 側に切り替えました。移行 タイミングも、特にユーザに利用制限時間等を設けることなく、日中に行うことも可能です。 これで、特に問題は生じていません」(原氏)
このような DB 移行ができるのは、CQRS 構成の検索用 DB ならではと言えるだろう。
原 氏 は 今 後、 旧 環 境 に 残 る 最 後 の DB を Elastic Cloud へ 移 行 さ せ る こ と に 加 え、 Elasticsearch をさらに使いこなしてレスポンス高速化などに繋げたいとしている。
「ビジネス面で言えば、検索スピードのさらなる高速化を目指します。そこがコンマ何秒早 まるだけでも、UX には非常に大きな影響がありますから。技術面では、Elasticsearch の エクステンションの中に便利なものがあるので、これらを使いこなしていきたいですね。そ のためにも、Elastic による勉強会やセミナーに期待しています」と語る原氏。DB の使いこ なしについて、以下のようなコメントも寄せている。
「日本では、大手ベンダーのコストが高く、高機能な商用 RDBMS が広く使われています。 下手な SQL でも内部で高速化機能が働いて、処理を早く済ませてくれるといったメリットは ありますが、そうした製品 ばかり使っているとエンジニアのレベルが上がらず、スキル面で のロックインがあります。当社のサービス基盤のように、要件に応じて適切な組み合わせで 使うことで、コストが安く高速なシステムを構築でき、エンジニアのレベルアップにもつなが るはずです」(原氏)