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三井住友DSアセットマネジメント株式会社:資産運用での高速情報検索に向けElasticsearch を導入。圧倒的な検索パフォーマンスで業務を支援

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AT A GLANCE

  • 35 種類
    データソースの種類
  • 4500万件
    蓄積データの件数
  • 1万件
    1日あたりのデータ増加件数

三井住友DSアセットマネジメントについて

三井住友アセットマネジメントと大和住銀投信投資顧問の合併により2019 年4 月に発足した資産運用会社。国内外の年金や金融機関などの機関投資家から個人投資家に至るまで、多様なお客さまニーズに対して、業界トップレベルの運用調査体制とグローバルなネットワークを活用した質の高い資産運用サービスを提供することにより、“Quality of Life に貢献する最高の資産運用会社” を目指している。IT 部門では、長期にわたり安定した運用成果をお客さまに提供できるよう、ファンドマネージャーをはじめとする運用担当者を支援する資産運用システムの開発に取り組んでいる。

資産運用業務を支える検索エンジンのスピードの遅さが課題に

三井住友DS アセットマネジメントにおける資産運用業務を支援するのは、「ALPHA」と呼ばれるシステムだ。ビッグデータと表現できるほどの膨大なデータを扱い、リアルタイムで市場の情報やニュースなど運用資産に関わる情報を提供することで、ファンドマネージャーなど多くの関係者の業務を支える、正に同社のビジネスのコアとなる存在である。

しかし、以前同システムで使用していた検索エンジンは、パフォーマンス上の問題や機能的な課題を抱えていた。IT・事務統括部で上席推進役を務める池田佳弘氏は、「Java ベースの分散ファイルシステムに対して並列処理を行う以前の検索エンジンは、単純な検索条件にしか対応できず、基本的な検索のスピードも遅かったことが最大の課題でした」と回想する。池田氏が所属するIT・事務統括部は、一般企業のIT 部門に該当する組織であり、ベンダーを含む総勢200 名を超えるメンバーが、社内で使用するIT システムを構成する製品やサービスの選定から開発、さらに運用に至るまで一切の責任を負っている。言うまでもなく、資産運用システムのパフォーマンス確保も、同部門が対応すべきテーマの1つだった。こうして、資産運用業務を遂行するファンドマネージャー達の意思決定を阻害することのない、素早いレスポンスを発揮できる新たな検索エンジンの検討が開始された。

40 億件のデータによるベンチマークで他社製品の約360 倍のスピードを発揮

資産運用支援システムでは、資産に関連する企業情報やニュースフィード、震災などの災害情報、さらにWeb 上の公開情報などを対象にした高速な検索が不可欠となる。池田氏は、「リアルタイムで届くデータについて、パイプラインで自然言語処理を行い、結果を瞬時に画面上に表示する必要があります。高速なレスポンスこそが、検索エンジン選定にあたっての最重要ポイントでした」と強調する。

IT・事務統括部は、複数の検索エンジンについて評価を開始するが、この段階で評価対象となった製品の中には、全文検索エンジンとしてのElasticsearch も含まれていた。池田氏は、製品選定の工程を振り返り、次のように話す。「他社を含め全5 製品で比較しましたが、Elasticsearch が圧倒的に速かったのです。構造化、非構造化、さらに時系列なティックデータを含めて約40 億件を使ってベンチマークを行いましたが、他社が平均で6 分かかった検索がElasticsearch では1 秒で完了しました。あまり速かったため、最初は『ショートカットしているのでは?』と疑ってしまったほどです。さらに、導入が簡単な点も評価できました。運用担当であれば、誰でも数時間でクラスターを組むことができます」。単純計算では、他社製品と比較して約360 倍も速いパフォーマンスを発揮したElasticsearch は、正にIT・事務統括部が求めていた検索エンジンだった。

構造化、非構造化、時系列なティックデータを含め40億件のデータでベンチマークを行いましたが、他社製品で平均約6分かかった検索が、Elasticsearchでは1秒で完了しました。ショートカットしたかと疑うほどの、圧倒的なスピードでした。

– 池田 佳弘 氏, 上席推進役,IT・事務統括部

高速な検索スピードこそ、資産運用支援システムの検索エンジンに求められる最重要な特性であると痛感していた同社では、以前使用していた検索エンジンからElasticsearch への完全切り替えを決定。2018 年の春からElastic Stack をコアにした新システムの試行運用を開始した。

35 種類のデータソースから日々1 万件のデータを格納。全3300 万件を対象に高速な検索を実現

2019 年4 月にリリースされ、現状、約80 名の社内ユーザーが日々使用している資産運用支援システムALPHA には、検索エンジンとしてElasticsearch が組み込まれ、インハウスで開発されたUI を介して、資産運用に関わる各種の情報をファンドマネージャー等のユーザーに提供している( システム構成概要について、下図を参照)。

図:資産運用に関わる各種情報とElastic Stack

図:資産運用に関わる各種情報とElastic Stack

Elasticsearch は、7 ノードでクラスター構成され、検索対象となる35 種類のデータソースを扱っている。蓄積されているデータ量は、現状約3,300 万件で、これが日々約1 万件増え続けている状況となる。データの取り込みおよびUI は完全にインハウスで開発されており、Elastic Stackに関わるメンテナンス用のコンソールとしての用途でKibana を使用している。テキスト検索エンジン以外は、自ら開発している三井住友DS アセットマネジメントだが、池田氏は、「Elasticsearchが提供する多様な検索機能は、開発生産性の向上に大きく貢献している」と話す。

資産運用で用いられる各種の判断は、一般的なデータ分析よりもさらにインテリジェントなものとなっており、同社がインハウスで開発した自然言語の分類機能により、たとえば特定の企業に対するネガティブな発言、ポジティブな発言というような感覚に近い視点からの判別を実現している。ニュースのヘッドラインから詳細を確認したい対象をクリックすると、1 秒未満のほぼ瞬時にElasticsearch によって検索されたニュース本文が表示される。また、全文検索を実行した際にも、待つことのない、ほぼリアルタイムに感じられる速さで該当コンテンツが表示される。たとえば、取り扱うファンドに組み入れられている企業で何らかの問題が発生した場合、ファンドマネージャーは、その企業に関わる株価の動きに加え、関連するニュースフィードを素早く確認し、さらにSNS 上などで飛び交うコメントやつぶやきなどを参考に、同株式の今後の取り扱いを判断。場合によっては、他の株式への切り替えなどを進めることもできる。

何千万件のデータから、全文検索で1 秒以内に結果を表示。担当者の意思決定を妨げない検索速度を提供

試行運用期間を通じて発揮されたElastic Stack の導入効果について、池田氏は次のように話す。「何千万件におよぶニュースデータから、全文検索で1 秒もかからず結果を返してくれる検索プラットフォームは他にはないと考えています。しかも、どの日にどの単語が含まれ何件あるのかといったレベルまで、非常に簡単に把握することができます」

IT・事務統括部 マネージャーの南哲夫氏は、「アナリストレポートの検索では、非常に大きな導入効果が発揮されました。現場から以前の検索処理が遅いので改善してほしいという依頼があり、Elasticsearch に切り替えたところ、全文検索、曖昧検索を含めた検索処理が、以前の数十秒から0.1 秒、つまりほぼリアルタイムにまで高速化されました。実際の業務効率の向上に貢献していると感じています」と話す。

アナリストレポートの検索にあたっては、全文検索、曖昧検索を含め、以前の検索エンジンで数十秒かかっていたものが、Elasticsearchでは0.1秒、つまりほぼリアルタイムで返されるようになり、業務効率の向上にも貢献しています。

– 南 哲夫 氏, マネージャー,IT・事務統括部

位置情報など各種データタイプのサポートでより高度な資産運用業務が可能に

各種のデータタイプがサポートされていることも大きなメリットだった。Elasticsearch では、位置情報をあらわすデータタイプを取り扱うことができる。これを適用した機能について、IT・事務統括部に協力会社として常駐する株式会社ミリネグローバル シニアエンジニアの柳寅煥(Inhwan Ryu) 氏は、「Elasticsearch では、地図上での位置をあらわすデータタイプであるgeo_point をサポートしているため、現状で約10 万件の上場企業の位置情報を蓄積しています。これにより、地震などの災害が発生した際、震源から半径10 キロ以内、50 キロ以内などの範囲内にある企業の情報を瞬時に把握することできるようになりました」と話す。

Elasticsearchでは、地図上での位置をあらわすデータタイプをサポートしているため、地震等の発生時に震源から半径10キロ以内、50キロ以内などの範囲内にある企業の情報を瞬時に把握し、対応することができるようになりました。

– 柳寅煥(Inhwan Ryu) 氏, シニアエンジニア,株式会社ミリネグローバル

たとえば、運用するファンドに盛り込まれた株式が、震災が発生した被害圏内にある大手製造企業のものだったと仮定する。このようなケースでは、ファンマネージャー自身が手を下すより早く、ALPHA 内のElasticsearch が位置情報を基に関連データを収集し、生産ラインの停止や社屋の倒壊などの被害状況を把握できるようにすると共に、ファンド内で継続して同株式を運用し続けるかという判断に必要となる株価の動きや、気象庁からの最新震災関連情報などを瞬時に提供する。これによってファンドマネージャーは、対象となる株式の継続運用、切り替えなどの判断を正確かつ迅速に行うことができる。

全社利用となる実運用を開始。幅広いアプリケーション設計も可能に

三井住友DS アセットマネジメントでは、5 月以降、約200 名の社内ユーザーが、その日々の業務でElasticsearch を活用することになる。ファンドマネージャーのデスクトップには、ALPHA の画面が表示され、Elasticsearch の検索で得られたニュースデータや企業情報などがリアルタイムで表示されている。

試行期間を通じて圧倒的な検索パフォーマンスが明確に発揮されたが、Elasticsearch の導入効果を総括する形で、池田氏は最後に次のように話す。「私たちは今後もアプリケーションを開発し続けますが、非常に高速な性能を持つElasticsearch を活用することで、アプリケーション設計をより幅広く行うことができるようになりました。これまでは不可能だった各種の取り組みがElasticsearch を使用することで可能になるのです」

刻々と変化するマーケット状況の中で瞬時の判断が求められる資産運用業務。三井住友DSアセットマネジメント株式会社における日々のファンドマネージャーの業務を支え、その思考を分散させないリアルタイムな情報提供を実現するために、Elasticsearch をコアとしたElastic Stack は大きく貢献している。

非常に高速な性能を持つElasticsearchを活用することで、アプリケーション設計をより幅広く行うことができるようになりました。これまでは不可能だった各種の処理がElasticsearchを使用することで可能になるのです。

– 池田 佳弘 氏, 上席推進役,IT・事務統括部