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オープンへの新たなる挑戦、パート2

注:本ブログ記事の初回公開後、さらに2つの詳細記事が追加されています。「ライセンス変更に関する説明」、および「ライセンスを変更しなければならなかった理由」の2本です。

ElasticsearchとKibanaのライセンス変更予定について

ElasticsearchおよびKibanaは、Apache 2.0ライセンスソースコードからServer Side Public License(SSPL)とElastic Licenseのデュアルライセンスに移行します。今後、ユーザーは適用するライセンスを選択することが可能になります。このライセンスの変更は、Elasticのコミュニティとお客様に対し、使用、修正、再配布、コラボレーションを目的としたコードへの無料かつオープンなアクセスを確保します。またこの変更は、クラウドサービスプロバイダーがいかなる還元も行わずサービスとしてのElasticsearchおよびKibanaを提供する行為を禁止することにより、Elasticが無料かつオープンに配布する製品の開発に対して行う継続的な投資を保護するものです。ライセンス変更は、上記2製品の保守されているすべての枝番を対象に、今後予定される7.11リリースに先立って適用を開始します。直近3年間と同様に、Elasticのリリースは今後もElastic Licenseの下に提供されます。

このソースコードライセンスの変更は、Elasticのデフォルト配布パッケージを無料で使用するElasticコミュニティの圧倒的多数のユーザーに一切影響を与えません。また、Elastic Cloudやセルフマネージド向けのElasticソフトウェアをご利用のお客様にも、まったく影響しません

近年、市場の進展とともに、オープンソース企業各社の真価がコミュニティから明確に認識されるようになりました。そのようなオープンソース企業はソフトウェアを継続的に刷新し、必要な投資を行うために、より適切にソフトウェアを保護する必要性に直面しています。オープンソース各社はSaaSの提供へ継続的にシフトしていますが、これまで一部のクラウドソースプロバイダーはコミュニティに一切還元することなくオープンソース製品を入手し、サービスとしての製品提供を行ってきました。SSPLまたはElastic Licenseのデュアルライセンス戦略への移行は、約3年前に有償コードをオープン化し、無料ティアを新規に設置、またすべての製品をElastic Licenseの下にリリースしてきたElasticにとって自然な選択です。この移行は、SSPLを初めて提唱したMongoDBをはじめ、多数のオープンソース企業のここ数年の方向性と類似しています。SSPLは、製品をサービスとして提供する場合、あらゆる修正と管理レイヤーのソースコードをSSPLの下にパブリックにリリースするというシンプルな要件に基づいて、無料かつ無制限に使用、および、修正することを許可します。

Elasticと“オープン”

私が個人的にオープンソースと関わるようになったのは、かなり以前のことです。2005年、私の最初のプロジェクトである“Compass”のソースを公開しました。当時私は妻のためにレシピアプリを開発中で、Apache Lucene上でJavaフレームワークを提供するCompassはその過程で誕生しました。それから5年間、私はバグや機能、質問について問い合わせてくるユーザーのためにコードを書いたり、アドバイスをしたりして多くの週末と夜を過ごしました。

昼間の仕事の片手間に、私は自分が何に足を踏み入れたのかも知らないまま、そうしたポジティブなインパクトを生む機会に夢中になりました。すぐれたプロダクトを開発する取り組みもさることながら、オープンソースという力を通じて周囲に素晴らしいコミュニティを形成する試みに心を奪われたのです。

2009年、私は再び開発物を公開しようと決めました。Elasticsearchと名付けて新しいプロジェクトの記述を開始し、多くの夜と週末を開発に費やして、2010年にオープンソースとして公開しました。このプロジェクトに全力を注ごうと決心した私は、当時の仕事も辞めました。コードの記述を通じてユーザーに寄り添い、またGitHubやメーリングリスト、IRCを運営するためです。

2012年、私たちは同じ精神でElasticを法人として立ち上げました。法人化後は無料かつオープンな製品群に精力的に投資し、急速に成長するユーザーコミュニティをサポートしてきました。提供製品は当初Elasticsearchだけでしたが、やがてKibana、Logstash、Beatsが登場し、現在ではElastic Stackベースの包括的なソリューション群、Elasticエンタープライズサーチ、オブザーバビリティ、セキュリティも提供されています。

私たちは製品を成熟させ、その周囲に活気あるコミュニティを育み、ユーザーに最大限の価値を提供することに重点を置いて歩んできました。現在Elasticには数百名ものエンジニアが在籍し、製品を一層向上させるべく日々作業を行っています。さらにElasticのコミュニティで活動し、共通の成功のために貢献してくれるメンバーは何十万人もいます。

設立した会社を誇らしく思うと同時に、Elasticがユーザーベースから高い水準の信頼を獲得していることは私にとって畏れ多くもあり、身が引き締まる思いです。オープン性と透明性こそ、この信頼の出発点です。そしてこの信頼は、Elasticの選択において、コミュニティとユーザーベースに誠実であることにより維持されます。

無料かつオープン For The Win

さかのぼること2018年、Elasticはsource-available license(ソース利用許諾)の1つであるElastic Licenseに基づき、無料および有償の専有機能のコードをオープン化しました。またElasticはデフォルトの配布パッケージを、すべての無料機能がデフォルトで有効化され、かつすべての機能を含むパッケージへと変更しました。

Elasticがオープン化を行った背景には、いくつかの理由があります。まず、有償利用のお客様とも、公開コミュニティと同じように協働することが可能になることです。また、Amazon Elasticsearch ServiceのようにElastic製品を入手してサービスとして提供し、一切の還元を行うことなくElasticのオープンソースソフトウェアから収益を上げる企業には機能を提供せず、Elasticがユーザーを支援する無料の機能を開発することも可能になりました。

このアプローチは好意的に受け止められており、現在、新規ダウンロードの90%でこの配布パッケージが選択されています。またElasticは製品やサービスの大部分を無料で供給しながらも、企業として成功を収めることができるようになりました。

この新しい“無料、オープン、かつ専有”のライセンス下で、数えきれないほどの良い変化が生じました。チームとコミュニティがElasticの全製品にわたって達成したこの素晴らしい進歩について私は恐れ入るばかりですが、その一部をぜひご紹介したいと思います。

まず新しい分散合意アルゴリズムとメモリ使用量の大幅削減、さらに、インデキシングとクエリのスループットを向上させながら標準的なインデックスサイズを40%近く減少させる新たなデータストレージおよび圧縮のアプローチによって、Elasticsearchのスピード、スケーラビリティ、信頼性が劇的に向上しました。また地理空間分析向けに新しいフィールドタイプを追加したほか、ログ格納と検索向けに一層効率的な方法が登場し、セキュリティデータで高速に、ケースインセンシティブな検索を実施できるようになりました。Kibanaでは、数年におよぶ再プラットフォーム化プロジェクトによって読み込み時間が80%短縮され、ページ全体の更新を回避できるようになりました。また直感的なドラッグ&ドロップの可視化エクスペリエンスであるKibana Lensのほか、ダッシュボードドリルダウンなどの重要な機能も導入されています。

さらにElasticはこの3年間、最も一般的なユースケースに向けて最高水準のエクスペリエンスを開発してきました。セキュリティ領域では、無料かつオープンなSIEMを開発してKibanaに直接搭載し、EQLと呼ばれる新しいクエリ言語を介してシンプルなルールと複雑な相関付けの双方をサポートするパワフルな検知エンジンをElasticsearchに導入しました。また、コミュニティとのパブリックなコラボレーションから生まれた数百もの検知ルールも提供しています。さらにエンドポイントセキュリティ分野を牽引する企業、Endgameを傘下に収めたことで、パワフルなマルウェア保護も無料でリリースしました。このリリースは、サーバーとエンドポイントをはじめ、今後さらに多くの対象に対応する一元的な集中管理型オブザーバビリティ&セキュリティエージェントであるElastic Agentの一部として提供されています。

セキュリティ同様、オブザーバビリティ領域も大きな進歩を遂げました。まずKibanaに直接、包括的なオブザーバビリティスイートを構築しました。たとえばlive-tailロギングUIや、ホスト、pod、コンテナーにわたる主要なメトリックとアラートを直感的に閲覧できるインフラレベルのビューなどです。また、オープンソースのデータコレクターやエージェントを搭載し、OpenTelemetry、リアルユーザー監視(RUM)やシンセティック監視、直近ではユーザーエクスペリエンス監視もサポートする多機能なAPMプロダクトも提供されています。

ElasticエンタープライズサーチにはElasticsearchの上層レイヤーとなるApp Searchが登場しました。リッチなアプリケーション開発をシンプル化するほか、関連性調整や検索使用状況に関する分析など、パワフルな管理インターフェースを提供します。またWorkplace Searchも無料で提供しています。Google WorkplaceやMicrosoft 365、Atlassian Jira、Confluence、Salesforceなど、生活や職場で使用するコンテンツソースを簡単に統合して検索することができます。

これらのすぐれた機能を開発できたこと、そしてコミュニティに無料提供できることは、シンプルに素晴らしいことです。Elastic製品への積極的な参加や製品の導入水準の高さ、また一連の新機能が非常に多くの人やビジネスの成功に役立つ様子を見ると、敬虔な気持ちになります。何より、こうしたことが可能になったのは、Elastic Licenseの下、すべての機能を無料かつオープンに搭載するデフォルトの配布パッケージをコミュニティの圧倒的大多数のメンバーが選択したからです。

なぜ変更するのか

冒頭で触れたように、この3年間で市場は進展し、コミュニティはオープンソース企業の価値を明確に認識するようになりました。そのようなオープンソース企業は高水準の投資とイノベーションを維持するため、ソフトウェアをより適切に保護する必要性に直面しています。ソフトウェアの供給モデルがSaaSにシフトする中、これまで一部のクラウドプロバイダーは一切還元することなくオープンソースプロダクトを使用し、それをサービスとして提供してきました。これは言うなれば、本来製品に再投資されるべき資金のプールに飛び込み、ユーザーとコミュニティを傷つける行為です。

他のオープンソース企業各社と同様、Elasticも身をもってこのような行為を経験しています。具体的には、商標の悪用のほか、ElasticのOSS製品を“オープンに”再パッケージ化してコミュニティを引き裂こうとする、あるいはElastic専有のコードから“インスピレーションを持っていく”などのあからさまな行為もありました。この問題を解決するためのアプローチはオープンソース各社ごとに多少異なりますが、総じて、無料のソフトウェアへの投資を保護しながら、オープン性と透明性、コラボレーションの原則を保全する意図に基づいてオープンソースラインセンスを修正するという方法が主流です。Elasticにとっても、ソースコードのライセンス方法について対象を絞った変更を行うことが自然な選択となっています。この変更はElasticのユーザーの圧倒的多数に対して何らの影響を与えず、一方でクラウドサービスプロバイダーがサービスとしてElasticのソフトウェアを提供することを禁止するものです。

Elasticは今後、一部の競合他社がこの変更について、あらゆる種類のFUD(恐怖、不安、疑念をあおるアンチマーケティング戦術)を拡散すると予想しています。あらゆる否定論に対して、私からはっきりと説明します。Elasticは無料かつオープンな製品、ならびに、コミュニティに対する透明性という原則を強く信じています。Elasticの実績はこのコミットメントを証明しており、私たちは今後もその基盤の上で開発を続けます。

変更点

近日公開予定のElastic 7.11リリースより、ElasticはApache 2.0ライセンスコードからSSPLとElastic Licenseのデュアルライセンスに移行します。今後、ユーザーは適用するライセンスを選択することが可能になります。SSPLはMongoDBが作成したsource-available license(ソース利用許諾)で、オープンソースの原則を具象化しつつ、パブリッククラウドプロバイダーによる対価の還元のないオープンソースプロダクト提供行為を防止します。SSPLは、製品をサービスとして第三者に提供する場合、あらゆる修正と管理レイヤーのソースコードをSSPLの下にパブリックにリリースするというシンプルな要件に基づいて、無料かつ無制限に使用、および、修正することを許可します。

Elasticがこの道を選択した理由は、SSPLが可能な限りオープン性を保つ機会を提供すると同時に、コミュニティと法人としてのElasticを保護するためです。ある意味、Elasticはこの変更で従来より一層オープンになります。この変更へのフォローアップとして、Elasticは無料の専有機能をElastic Licenseから、Elastic LicenseとSSPLのデュアルライセンスに移行させます。SSPLはより寛大で、製品を可能な限り無料かつオープンにするというElasticの目標により合致しています。

Elasticのソースコードのライセンス変更はある意味では大きな変化ですが、コミュニティの圧倒的大多数のユーザーには、実際のところ何の変化もありません。Elastic Cloudかオンプレミスかを問わず、現在Elasticをご利用のお客様においては、一切の影響が生じません。現在Elasticのデフォルト配布パッケージをダウンロードして使用しているお客様は、今後も同じElastic Licenseの下に無料かつオープンにお使いいただけます。ElasticsearchやKibanaへのコントリビューションを行ってくださっている皆様(ありがとうございます!)にも、何も影響はありません。

Elasticはこれまでの3年間と変わらず、今後もElastic Licenseの下でオープンにコードを開発し、コミュニティと関わり、無料のリリースを続けます。Elasticはこれまで無料だったすべての機能を今後も無料で提供する取り組みを続けます。Elasticは無料、および有料サブスクリプションを通じて提供されている機能に、一切の変更を加えません。

Elasticは、一元的なコミュニティの重要性を以前にも増して強く確信しています。この変更は、Elasticが過去10年以上行ってきたように、将来においてもElasticのコミットメントを証明し、皆様の信頼を獲得し続けるための準備です。

資料:

将来の見通しに関する記述

このブログ記事には、相当なリスクと不確実性を含む、将来の見通しに関する記述があります。その記述は、Elasticが保有するコードのライセンス、ならびに、サービスとしてのソフトウェアおよびオープンソースサーバーサードソフトウェアの市場機会、オープンソースイノベーションの利点、企業が採用するライセンスモデルがもたらす影響、Elasticの今後の研究開発投資、Elasticのソリューションと製品の強みに関する評価に関する記述を含みますが、これらに限定されません。これらの将来見通しに関する記述は、1995年私募証券訴訟改革法の免責条項に基づいています。これらの将来見通しに関する記述は、現時点で入手可能な情報および、Elasticの予想に基づく計画、意向、予想、戦略、展望に関する現時点のElasticの見解を反映しています。Elasticはこれらの将来見通しに関する記述に反映されている、またはこれらの記述が示唆する自社の計画、意向、予想、戦略、展望を妥当なものと考えますが、その計画、意向、予想、戦略を達成または遂行できるという保証はありません。状況の不確実性、リスク、変化によりこれらの将来見通しに関する記述が予想する内容と実際の成果や結果と異なる可能性があります。この状況には、新しいデュアルライセンスモデルを適時かつ首尾よく実装し、そのメリットを達成するElasticの力量、顧客とユーザーコミュニティにおける新たなライセンスモデルの受容、開発者コミュニティとの間に継続して信頼を構築および維持するElasticの力量、SaaSサービスの競合の影響、Elasticが自社の知的財産を維持、保護、統制、強化する能力、オープンソースライセンスモデルに基づくSaaSサービスの拡充と採用の影響、将来の事業活動に対するElasticの信念および目標を含みますが、これらに限定されません。実際の成果や結果と大きな乖離をもたらす可能性のあるその他のリスクと不確実性については、2020年4月末の会計年度におけるElasticのフォーム10-K年次報告書、および、同報告以降に米証券取引委員会(SEC)に提出される報告書を含む、SECへの申告書に記載されています。SECへの提出書類は、ElasticのWebサイトにある[投資家向け情報]セクション(ir.elastic.co)および、SECのWebサイト(www.sec.gov)に公開されています。法令により要求される場合を除き、Elasticはこれらの将来見通しに関する記述を更新する義務を負わないものと考え、また現時点で更新の予定はありません。